『僕は勉強ができない』山田詠美

 

前置き

久しぶりに本の感想です。

本の感想を記事にするのって、日常の出来事や自分の考えを書くのに比べ、なんだかすごく苦しいのです。書きたい気持ちはあるのだけど。

なぜなんでしょうね。皆が知っているものについて書く故に批判が怖いのか。創作物のエネルギーに圧倒されて自分の言葉を紡げないとか??

最近『三島由紀夫レター教室』『限りなく透明に近いブルー』『ぜつぼう』の三冊を読んで、本当はそれらについての感想も書きたいのですが、なかなか億劫です。

本を手に取ったきっかけ

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緑一色。いいですね。

以前、「中高生におすすめの本」みたいなのを読み、この本が紹介されていて、タイトルが面白そうだったので手に取りました。

少年ジャンプに『ぼくたちは勉強ができない』という漫画が連載されているらしいですね。それは読んだことがないので、この小説と関係あるかは分かりません。

あらすじ&感想

 主人公の時田秀美の高校生活を描いた8編の短編+彼の小学生時代の担任目線で描かれた番外編1編 で構成されています。

時田は、型にはまらない哲学を持っていて、堅い大人には疎まれるものの、発言には芯があり、説得力もある。そんな風に描かれます。

タイトルの言葉を借りれば「勉強ができないけど頭は良い」ってやつでしょうか。

さて、ここでは特に僕が好きな3編を紹介します。

○をつけよ

時田は、母親と祖父と3人で暮らしています。

そのため、何かにつけ「父親がいないから」と言われてしまいます。

褒められるときは「父親がいないのにすごい」、貶されるときは「父親がいないからこうなんだ」。

彼はそれを嫌います。

タイトルの「○をつけよ」とは、こんな風に根拠なく何かと何かを繋げ、定義することを指しているのでしょう。

彼はよく○をつけられるものの、彼の性格や人柄でそれを乗り越えます。

この話では、学校の先生と彼が言い争う場面があります。

立場などを考えるとどちらが正しいとも言いがたいのだけど、正しさはともかく揺らがない彼の姿が素敵でした。

時差ぼけ回復

時田が体調不良で学校を休んでいると、同級生が自宅を訪ねてきます。

そこで時田は「同級生の片山が自殺した」と伝えられます。

2人は、かつて片山がしていた話を思い出します。

原文そのままで書いてみます。

彼が、何かの本で読んだことには、人間とは、本来、二十五時間を一日の周期として生きる動物だというのである。それを二十四時間に合わせて行くと、どうしても、一時間の時差が出る。その一時間を、それでは、どのようにして解消して行くのか。普通の人間は、食事や仕事や遊びなど、日常の動作を繰り返す内に少しずつ体をだまして、小刻みに時間を振り分けていく内に、つじつまを合わせて行くのだそうだ。しかし、中には、それが、どうしても出来ない人間たちがいる。そういう人たちが、体をだませずに不眠症になったり、日常に支障をきたしたりするのだそうだ。

「で、ぼくは生まれた時から時差ぼけなんだよって続けたんだよな、あいつ」

 

敏感すぎたり、情緒不安定だったり、人前で要領よく振る舞えなかったり、、、その他諸々で生きづらい人たちを指していると感じました。

それを「時差ぼけ」と表現するのがユニークで好きです。

片山は、人より多い1時間でいろんなことに悩んでいたのでしょうか。なんて考えてしまいます。

 

あと、「体調が悪いと人の死さえ悲しめない。感傷は健康体の特権なのか。」といった文があり、共感でした。

特権、、、というか、身体の健康度合いで気持ちの感じ方って変わりますよね。

 

番外編・眠れる分度器 

もう一つ印象的だったのは、記事の初めに書いた、番外編1編です。

時田が小学生の頃の担任である奥村先生目線で描かれます。

彼は、よくいそうな子供が好きな教師なのですが、「多少強引さがあっても子供に教育する」のが好き、という面もあります。

論理が破綻してても「大人が言う」という理由でだけで子供は受け容れてしまいがちですからね。そんな教師いたなぁ・・・。

そんな彼は、叱っても堂々と立ち向かってくる時田がどうも嫌でした。

時田本人や母親と話したりするものの、自分の思い通りにいきません。

しかし、時田や母親と関わっていくうちに・・・。といったお話です。

このお話は、もう一つ別のエピソードも絡んできて、番外編を以て物語が完結、という印象を受け、面白いです。

おわりに

この小説は(番外編を除き)時田秀美の「僕」の一人称で書かれています。

そのため、彼目線で物語は語られ、彼の哲学を存分に味わえます。

「あとがき」によると著者の山田詠美さんは「大人にこそ読んでほしい」と述べています。

一歩引いた目線で読めるからだそうです。

僕はおそらく、中高生の頃に読んでいたら、時田に賛同する部分が今より多いかなーと感じています。

もしも時田と同じクラスだったら、自分の芯がしっかりしてるがゆえに近づきがたいけど、羨ましかったりするかも、なんて思いました。

読む人によって様々に思うところがあると思います。おすすめです。